ダイレクトボンディングと保険のコンポジットレジン(CR)治療の違いとは?
- 2024年1月28日
- 臨床系
当院ではダイレクトボンディングを得意な治療としてInstagramに症例を提示しておりますが、これは即日に歯に白い充填物を入れる方法です。これに使用しているのが、コンポジットレジン(Composite Resin : CR)という充填剤で、主に保険治療などで小さな虫歯や欠損を修復するために頻用される材料です。これはフィラー(セラミックの粉末)とプラスチックと似たポリマー成分の混和物から成ります。
CRには色が多く存在し、また各メーカーごとに性状の異なるCRが販売されています。現在のトレンドはなるべく1種類のCRで色が歯質に合うように設計されているものが多いです(在庫管理の観点からも経済的なので)。性状は注射器のような形状のシリンジからトロっとした流れの良いCRを充填する方式(ダイレクトアプリケーションタイプ)が開業医の先生方から好まれる傾向にあります。これは充填の容易さからと思われます。一方、粘土のような硬さで紙に一度出し、これをヘラ状の充填器で充填するCR(シリンジタイプ)も存在します。これは以前から存在するもので賦形性に優れています。
ではダイレクトアプリケーションタイプで色の合うCRで充填すれば万事OKかというと、保険治療の充填では及第点であると思われますが、長期的安定性や審美性を考えると、そうではありません。
①ダイレクトアプリケーションタイプのみの充填では摩耗しやすく、変色もしやすい。
ダイレクトアプリケーションタイプは粘性を高くしている分、内部に含まれるセラミックの量がシリンジタイプと比較すると少ない傾向にあります。これにより経年劣化しやすい傾向にあります。(最新のものはかなり改善されています。が、シリンジタイプが粘土のような硬さなのはセラミック含有量が多いためで長期安定性ではシリンジタイプに軍配が上がります)1~4)
②シリンジタイプは充填が煩雑である。
これが保険のCR修復でダイレクトアプリケーションタイプが頻用されている大きな理由の1つです。患部に直接充填できるため、スピーディーです。数をこなさなくてはならない保険診療にはピッタリです。
ではダイレクトボンディングとは何か?これは「自費用のシリンジタイプコンポジットレジンを用いた充填」もしくは「保険適用CRでもその歯科医院が自費と定めたら」ということになります。
国内・海外のメーカーから自費専用(保険診療での使用が認められていない:上図)CRが発売されています。自費用のCRはより色調や物性に対する要求の高い症例での使用を想定し、色調適合性、研磨性が優れています。また現在私の知る限りではダイレクトアプリケーションタイプの自費用CRは存在しません。ではこちらを充填さえすれば保険外治療のダイレクトボンディングかというと、私見ですが、異なると考えます。
CRが長く口腔内に維持されるにはCRの接着剤(ボンディング剤と言います。これも様々なメーカーから販売されています)に依存してきますので、そのまま口腔内で使用しても100%の力は発揮できません。接着性能は実験室で乾燥状態の理想的な環境で測定されているからです(口腔内は湿度100%)。これに環境を近づけるにはラバーダム防湿(ゴムのマスク)が必須となります。またCRの経年劣化と特徴として、CRと歯の界面が着色してきますが、これを防ぐ方法として酸で界面歯質を処理して接着力を向上させると界面の着色が低減できます(接着剤使用前に、ひと手間必要)。よってダイレクトボンディングには最も良い材料・技法が施されているかが要件であると考えます。
長期的に安定性のあるCRを使用し、接着界面に理想的な処理を施すことができれば、長期的に綺麗で虫歯の再発が少ない修復となります。またCR修復は元来悪いところしか削らない最も非侵襲的な治療です。つまりダイレクトボンディングはCR修復の究極形です。
知識のある歯科関係者であれば間違いなく選択する治療です。実際当院にダイレクトボンディング希望で来院される患者様の数割は歯科関係者です。
今回の記事に関しまして東京歯科大学保存修復学講座講師、半場秀典先生にご示唆いただきました。この場を借りまして御礼申し上げます。
1) Effect of mouthwashes on color stability of composite resins: A systematic review The Journal of Prosthetic Dentistry. https://doi.org/10.1016/j.prosdent.2020.08.001
2) Assessment of colour modifications in two different composite resins induced by the influence of chlorhexidine mouthwashes and gels, with and without anti-staining properties: An in vitro study ; Int J Dent Hygiene. 2023;00:1–6.
3) Two-year clinical comparison of a flowable-type nano-hybrid composite and a paste-type composite in posterior restoration ; Journal of Investigative and Clinical Dentistry (2017), 8, e12227
4) Comparative Evaluation of Colour Stability and Surface Hardness of Methacrylate Based Flowable and Packable Composite -In vitro Study ; Journal of Clinical and Diagnostic Research. 2017 Mar, Vol-11(3): ZC51-ZC54